えとりんご

観劇の記録。ネタバレご注意を。この橋の向こうにジャコブ通り。

マタ・ハリ① ~鏡の中にあなたを見るまで

 私の観劇ライフの大きな転換点となった作品『マタ・ハリ』。
 観劇用ブログを立ち上げたからには、マタ・ハリについて書かないわけにはいかないでしょう笑。というわけで、まずは私のマタ・ハリとの運命的な出会いから…(今回は本編にはあまりふれていません。単なる私の沼落ちの軌跡です笑)

 昔から観劇は好きでした。どういうわけか、大学生だった妹が舞台にどハマりしていて、おススメ作品のチケットを手配しては誘ってくれました。帝国劇場、日生劇場、宝塚… レ・ミゼラブルエリザベートなどなど…(今から思えば超プラチナチケット)。初めて体験する劇場の非日常な空間と空から降ってくるような歌と楽曲に心を奪われ、自分の知らない世界に衝撃を受けました。ですが、そんな妹が遠方に引っ越した後は、私も仕事や子育てに時間を奪われ、舞台から遠ざかってしまい、ほんのたま~に気が向いた時に行く程度になっていました。

 時が流れて2017年のこと、仕事でヨーロッパ出張に行く機会があり、空き時間にロンドン塔に観光に行きました。ヨーロッパの古城を思わせる勇壮かつ幻想的な建物、王冠や鎧甲冑の展示、塔の守り人と伝えられている大カラスが印象的で、それに加えて、この塔が持つ血なまぐさい歴史が独特の雰囲気を作り出しています。幽閉されたエリザベス1世、処刑されたアン・ブーリン、失踪した幼い王子など、数々の伝説が伝わるロンドン塔。まさに歴史のロマンに浸りながら日本に戻ってきました。
 ほどなくして、ふと思い立って東宝のHPを見ました。そこに紹介されていたのは「レディ・ベス」。若きエリザベス1世のお話。アン・ブーリンも登場。これは!帝劇が私を呼んでいる!そう思いましたね。
 ロンドン塔で感じた、ここに生きてここで死んだ人たちの息遣い、情熱、怨念…そういったものを思い出しながら見たお芝居は、さらにロマンを感じさせてくれました。ストーリー的には、私にはちょっとおとぎ話すぎる部分もありましたが、久しぶりの劇場の非日常感に心躍らせて帰ってきました。そんなに刺さらなかったような気もするんですが、結果、チケットを追加して3回くらい観ましたし、CDもDVDも買いましたね(刺さらなかったとは?)。
 久々の劇場の感覚に震え、早速また何か見たいなと。劇場でもらった大量のフライヤーを家で広げ、じっくりと吟味したのです。基本的にはストーリー重視で。自分に刺さりそうなものを。20枚くらいの中から吟味に吟味して選び抜いたのが『マタ・ハリ』でした。(私がラドゥーに出会うまであと3か月)
 当時はtwitterもやっていなかったのでフライヤーから匂い立つ雰囲気だけで選んだのですが、まず史実の女スパイマタ・ハリから連想される謎めいたイメージ、モノトーンの写真から浮かぶいわくありげな人間模様、そして、レディ・ベスのロビン役でお初に見た加藤和樹さんがラドゥーとアルマンの二役をされるということで、どちらの役も見てみたいと思いました。
 その頃の私にとっては、観劇はとても非日常なイベントで、旅行の感覚に近いものでした。悩むなら行っちゃえというわけではなく、しっかり厳選し、観る前に予習もして1度きりの観劇に全力で臨み、観た思い出をずっと大切に反芻するタイプでした。なので、レディ・ベスを3回見たのは、私の中ではちょっと殻を破った冒険だったのです。でも実際に3回見ると、キャストが違えば印象も変わるし、お芝居が進化していて、複数回観劇する人の気持ちが少しだけ分かった気がしていました。
 そこで私はさらに殻を破って、最初から『マタ・ハリ』はチケットを3枚取ったのです。レディ・ベスのCDなどで加藤和樹さんに何となく親近感を感じ始めていたのですが、アルマンよりラドゥーの役どころの方が自分のセンサーが反応したんですよね。結果、和樹さんラドゥー2回、アルマン1回で取ったと思います。(私がラドゥーに出会うまであと50日)
 当時、もんのすごく多忙だった私の仕事ライフ。会議や出張に追い立てられ、行けるかどうか直前まで危ぶまれましたが、無事に仕事の合間を縫って、いざ『マタ・ハリ』の世界へ!(私がラドゥーに出会うまであと1時間)

・・・これが私の中の知らない私の扉を開けてしまった瞬間でした。


 初回のマタ・ハリを見終えて国際フォーラムを出た時の私は、やばいやばいやばやばやば…と思わず出てしまいそうな声を押さえるために、頬っぺたを手で押さえて、首をフリフリ振りながら歩くただの不審者になっていました。何がやばかったのか、自分でも分かりません。今から思うと、ストーリーも完全に理解したとは言い難かったと思います。でも、言葉で説明できないくらい、心と体が反応してしまっていました。
 2回目の時には、とにかく心拍数が異常に上がり、息苦しくなるほどでした。特に、1幕後半の「二人の男」の歌い終わりでロングトーンの音圧がかめはめ波のような波動で飛んできた時には、そのまま天井を仰いで、後頭部を座席につけたまま放心しましたね。もうその後1幕ラストまで何を見たか覚えていないぐらいで、幕間に立ち上がろうとしたら、心臓バクバクで、足に力が入らず起き上がれなかったので、そのまま体を半身にして過ごしました。完全に撃ち抜かれた図でしたね笑
恐らく、ラドゥーとアルマンの歌声の圧を全身で正面から浴びてしまったのと、歌詞が私の全てに刺さり切ってしまい、再起不能になったんだと思います。その後、2幕のラドゥーとアルマンにさらに追い討ちをかけられ、ほうほうのていで帰宅しました。
 この頃、初めてチケット定価お譲りサイトで追いチケしたり、初めてマチソワ(昼公演(マチネ)と夜公演(ソワレ)を同日に見ること)したり、色々な考察を読みたくてtwitterなるものに手を出したりと、これまで自分が超えることはないと思っていた一線を一気に飛び越えました。
 見る前からぼんやりと予感はあったものの、自分が完全にラドゥー派であることを自覚し(追いチケはほぼ和樹さんラドゥー)、日に日に進化するおうちラドゥーの場面ではひぃ~~~~っと声なき声を出しては座席でのけぞっていましたし、ラストのラドゥーシーンでは拍手を忘れるくらいストーリーに入り込んでしまい、あの後の彼の人生を思うと、誰か抱きしめて本当の愛を教えてあげてほしい、誰もいないなら私が抱きしめてあげたいと思うほど、私のラドゥー愛が炸裂してしまいました。
 大千秋楽の日は随分と前から満席だったし、実は語学の検定テストを(1万円も出して)申し込んでいたので観劇は諦めていたのですが、前日の夜中にお譲りチケットサイトにぽっとチケットが出た瞬間に立ち会ってしまい(そもそも何故見ていた?)、反射的にポチっと押していました(え?)。この日は全てのキャストの熱量が増し増しで、特にラドゥーの「戦いが終わっても」が尋常じゃない嘆きの咆哮で、客席の誰もが完全に拍手を忘れ、ラドゥーの乗る台が捌ける音が静かに劇場に響きました。その後のtwitterの反応を見ても、いわゆる神回だったんだと思います。語学検定の1万円を棒に振った甲斐はありました(おい)。自分を思いきり褒めましたね(おいおい)。
 ただでさえラドゥーに撃ち抜かれていたのに、初めての神回を経験してしまったので、当然ながらしばらく仕事も手につかず、千秋楽後1か月ほどロスを引きずりました。食べ物も喉を通らず、目を閉じ妄想に耽ると和樹ラドゥーの姿が浮かぶ狂った日々を送りました。そもそもマタ・ハリ期間中は体重が落ちるし、観劇翌日は驚愕するほどお肌のつやがよくて、完全に乙女でしたね。職場の同僚からは「最近何かいいことあったでしょ?」と言われました(←私は子持ちの母です笑)。

 これは絵に描いたような沼落ちの記録ですね~笑 当時の私にとっては、観劇はあくまでも数ある趣味の一つであって、推しとかオタクとかは自分とは全然無縁の世界のことと思っていました。しばらく認めることを拒否してましたが、千秋楽後だんだん時間が経ってもなお、寝ても覚めてもラドゥーのことしか思い出さず、ラドゥーの写真や記事を見ると一気に動悸が激しくなる自分を見て、すっかり沼の底にいることを認めました。
 その後も加藤和樹さんの作品を中心にしつつ、そうでないものも含めて色々と観劇を続けています。でも、マタ・ハリを超える作品、和樹さんラドゥーを超える役にはなかなか出会わないですね。あのラドゥーが私の理想なんでしょう(病みすぎじゃ!大丈夫か自分!)
ほんとにすみません!ただ単にマタ・ハリ愛、いやラドゥーへの狂った愛を熱く語ってしまっただけの回になりました。自分でもちょっと危ないかもと思うときもありますが、一方で、こんなに思い入れの深い作品に出会えたことを幸せにも思っています。次回以降は、これほどまでに私を惹きつけてやまないマタ・ハリの内容について、色々と思い出しながら語っていきたいと思います。


ちなみに、この写真はHPのヘッダーにも使っているのですが、冒頭でお話したヨーロッパ出張でパリに行ったときに撮った写真です。この橋の向こうにジャコブ通り♪最近になって知ったのですが、泊まったのはジャコブ通りのちょっと先にあるホテルだったんです!!(マタ・ハリを見た人は分かると思いますが、マタとアルマンが最初に出会う場面がジャコブ通りのちょっと先なんです。)

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 仕事がとんでもなく激務で、子育てもピークに忙しかったあの頃、どうやって毎日を過ごせていたのか今や思い出せないくらいですが、そんな私に神様がちょっとした新しい世界との出会いを仕込んでくれていたんだな、なんて思っています。ヨーロッパ出張は単なる業務命令でしたが、その時にロンドン塔に行ったのも、レディ・ベスを観に行ったのも、和樹ロビン回を選んだのも、数あるフライヤーからマタ・ハリを選んだのも、小さな奇跡の積み重ねなんですが、全部自分が選んだ結果なので、少しだけ運命的なものを感じています。そんな奇跡の先に巡り合ったマタ・ハリは、きっとこれからもずっと私にとって大切な思い出の作品になり続けると思っています。

 

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マタ・ハリ① ~鏡の中にあなたを見るまで - えとりんご

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