えとりんご

観劇の記録。ネタバレご注意を。この橋の向こうにジャコブ通り。

マタ・ハリ③ アルマン 〜連行してくれるの?

※ネタバレ注意です。

 

 まず予め宣言しておきますと、アルマンはめっちゃイイ男だと思いますが、元々私はアルマン派ではないんですよね笑笑 はい、ここは超頻出、毎回テストに出るところですが、私は甘党ではなく、断然辛党というか渋党で、実世界でも作品世界でも甘い言葉で囁く優しい系男子が苦手なんですよね。最近でこそ、ちょっとキュンとするかもと思えるようになりましたが、初演を見た頃は全くなびかない体質だったもので、しかもどどどどストライクすぎるラドゥーとセットで出てくるので、全てをラドゥーに持っていかれすぎて、アルマンをじっくり見る余裕がありませんでした。なので、再演の三浦涼介さんアルマンを見たときの衝撃は半端なかったですね。

まさか私がアルマンに連行されている!?

 あのアルマンは反則すぎるでしょ!!何ですか、あれは!?元々天が遣わした天然ハニートラップなりょんりょんに、影を背負ったわんこアルマンを演じさせたの誰ですか!!初演の時は、アルマンはマタに真っすぐ愛を注ぎ、マタのピンチを救う正義のヒーロー的な役だと思っていたわけですが(いやまぁマタのピンチを作り出しているのもアルマンなんですけどもね)、りょんアルマンはちょっと違うんですよね。強いというよりしなやかで、影があって、庇護欲を掻き立ててくる存在…。
 特に、手紙を書くシーンと病室でマタに再会するシーンと普通の人生と…(あれ、エンドレス笑)。手紙を書くシーン、私は近い距離で真正面に見ていましたが、汗か涙か分からないものが瞳から髪からあごからつたっていて、そこに照明が当たってキラキラ輝いていましたね。病室での再会シーンは、もうマタが覗き込む眼差しが完全に母になってるんですが、それもそのはず、りょんアルマンが幼い子供のように見えました。眠っているんだけど、悪い夢でも見ているのか少し険し気な表情だったり、日によっては涙が流れる筋が見えたり。マタが頬に触れる手に気づいてふと目を覚まし、ゆっくりと視線を動かしてマタを捉え、驚きと喜びが沸き上がる表情、涙ぐんで抱擁を交わした後におでこコツン…。あのおでこコツンは何ですかね!反則過ぎて、レッドカード一発退場でしたよね!傷を負っているのも相まって、弱く儚げで、母性本能が思いきりくすぐられました。
 かと思うと、やる時はやる感じもあって、リヨンのホテルで支配人を倒す時の手際の良さには目を見張るものがあり、二人の男でラドゥーを煽るところはひぇーーっっ煽ってる~ってなるし、ピエール達を鼓舞するところは人望もある有能な上司って感じでしたね。それでいて、キスへの流れが急にフェロモン全開すぎてビビります。

普通の人生
 アルマンの最大のビッグナンバーである普通の人生では、初演の車いすの演出も嫌いではなかったですが、再演を見ると、雪と肩掛けコートを背負って歌う演出が圧倒的に素晴らしくて、マタへの切ない思いが全身から伝わってきました。
 ありふれたちっぽけな日常が何よりも大切だというメッセージは、ともすると陳腐に聞こえるものでもあり、特に若い人が言うと年寄りくさくて白けてしまう難しさがあると思っているんですが、その直前の病室シーンや三重唱でマタへの熱い思いが強く表れていたし、再演はコロナ禍真っ最中で誰しもが日常生活の有難みを身に沁みて感じている時期だったこともあり、心にぐっさり刺さりました。
 東アルマンは王道ヒーロー的な印象が強いので、元々はありふれた日常が大事だなんて思っていなくて、まさにちっぽけすぎて嫌っていたのが、戦争で明日さえ見えない境遇になって初めて有難みを知ったという感じがありました。三浦アルマンは、元から大切に思っていそうというか、幼少期に得られなかった幸せな家庭に憧れを抱いていそうで、でも軍人としてそれを表立って言うことはなかったけれど、この境遇になり、マタとの愛を知ることで改めて普通の幸せを心から欲している、そんな印象を受けました。

アルマンの謎 その1
 秘密の任務を隠していることもあって、アルマンの人物像はどこか謎めいています。正真正銘ハニートラップなんですから。では、アルマンはいつどこでマタとの恋に落ちたのでしょう。少なくともリヨンのホテルで、マタの過去を打ち明けられたとき、アルマンは絶対にこの女性を悲しませない、この時間は本物だと誓ったと思っています。では、その前の屋上のシーンはどうだったのか。出会いが任務であったのは間違いないですし、酔っ払い役の同僚と段取りを考えた時はハニートラップとして任務を成功させることしか考えてなかっただろうなと思うんですが、あの天下の大スターであるマタが思った以上に純粋に飾り気なく心を開いてくれて、ティーツリーオイルで看病してくれたり、自分の大切な場所である屋上からの眺めを見せてくれたことで、アルマンもつい心が動いたんでしょうね。任務か本心かアルマン自身も分からない感情に揺れる時間があったんだろうなと想像します。マタの心が自分に向いてこなければ、自分の心を封印して任務のまま終わらせたかもしれないですよね。この葛藤の時期ももっと細かく見てみたいと思ってしまいますが、そんな葛藤まで描かれたらアルマンにもさらに持っていかれそうで怖くなります笑 そんな複雑な心境を経た上で、マタの壮絶な過去や愛に対する不信感を聞いてしまったアルマンは、お互いに辛い傷を癒し合えると思ったでしょうし、自分が真実の愛を与えてあげたいと思ったんでしょうね。
 ちなみに、愛が真実になるリヨンのホテルの場面、東アルマンと愛希れいかマタもとても良かったですね。華奢~なちゃぴマタを東アルマンがぐっと抱き寄せ、髪ごとぐしゃっと抱きしめるのが大変良きでした。しかも超密着体勢なのに、どこに隙間があるのか、ちゃぴマタがくねくねと両腕を出してきてアルマンの首に回すんですよね。あ~そのまま幸せになってくれ~と思いましたね。

アルマンの謎 その2
 ただ、よくよく考えると、アルマンは何で法廷に飛び込んできたんだバカヤローと思ったりもします。きっとマタの裁判は話題にもなっていたでしょうから、マタが無実の罪を着せられることは何としても阻止したい気持ちがあったんでしょうね。アルマンからすれば、ラドゥーからもマタからも裏切り者と思われているわけなので、このままでは死ねないという思いもあったでしょう。
 アルマンのラドゥーへの気持ちは、正直なところ、はっきりとは分かりづらいと感じています。当然、上下関係は厳しかったでしょうが、元は2人の信頼関係は厚かったと思っています。リヨンのホテルの件は後ろめたい点があるとしても(ラドゥーの眉がピクっと動きそうですね)、基本的には命ぜられた任務を期待以上のレベルでこなしてきたわけで、ついマタを愛してしまったのは想定外だったものの(ピクピク)、主目的であるドイツ軍とつながっていないかどうかはきちんと確認していて、何なら自分とこれだけ愛し合っている時点でドイツ軍とのつながりは断ち切っていることも確実なのに(ピクピクピク)、なぜにパッシェンデール送りにされるのかという理不尽さは感じているでしょう。その結果、偵察機で撃墜されて生死を彷徨い、マタとのすれ違いにもつながっているわけですから、ラドゥーへの思いは複雑なものがあるとは思います。忠誠心が残っていたか、憎しみが募っていたか、どうだったのでしょう。私はどちらもあると思いますが、憎しみというより悲しみなのではないかとも思います。アルマンにラドゥーへの忠誠が残っていたとすれば、戦争で狂ってしまった理性を取り戻してほしい、部下の落命に心を痛めていたあの人情の厚い大佐に戻ってほしいと思っていたのではないかと思います。もちろん、場合によってはラドゥーと刺し違えることも覚悟していたとは思いますが、願わくばラドゥーに目を覚ましてほしいという気持ちが強かったのではないでしょうか。
 マタに対する気持ちはというと、当然、生きて戻ってもう一度マタに会いたい、裁判の危機から救い出し、愛し愛され、普通の幸せな人生を二人で歩みたいというのが究極の願いだったでしょうが、その前に、自分の本当の気持ちを伝えたいという思いがあったと思います。自分の気持ちが嘘偽りだと思われたままで別れたくない。というよりも、自分に裏切られたと思い込んで、マタに悲しい思いをしてほしくない。自分のせいで、やっぱり愛なんて信じられないという絶望に再び突き落としてしまったことが耐えられない、本物の愛が存在することを信じてほしい、そんな気持ちが強かったように思います。マタの運命は変えられないかもしれない、ラドゥーの決断を覆すことはできないかもしれない、マタに自分への愛が残っているかどうかは分からない、マタとの幸せな未来は望めないかもしれない、それでも自分の愛が本物だということだけは伝えたい。そんな強い思いが伝わるアルマンでした。

 というわけで、王道プリンスや正義のヒーロー的な甘々男子には普段全く興味ない私ですが、三浦アルマンのハニートラップに思いきり捕らわれてしまいました。そういった感情が私にもあったんだな~ということを気づかせてくれた三浦アルマン。私にとってはもはや大事件でしたね笑

 

マタハリ考察一覧はこちら

マタ・ハリ① ~鏡の中にあなたを見るまで - えとりんご

マタ・ハリ② マタ 〜見れば魂奪われ - えとりんご

マタ・ハリ③ アルマン 〜連行してくれるの? - えとりんご

マタ・ハリ④ ラドゥー ~なぜ心きしむのか - えとりんご

マタ・ハリ⑤ ラドゥー2 ~あなたがいるから眠りを忘れた - えとりんご

マタ・ハリ⑥ ラドゥー3 ~あの眼差しにとらわれて - えとりんご